カリフォルニア州では、いくつもある電力会社の上に乗っかるようにCAISO(California Independent System Operator: カリフォルニア州独立系統運用機関)という組織があり、電力自由化・発送電分離に合わせてカリフォルニア州での電力網の安定化や同時同量を担ってきた。
しかし、さらに広域にした電力網の創設については、20年にもわたって検討が行われてきたが、現在CAISOの参加電力会社拡大に向けた積極的な取り組みにより新しい局面を迎えようとしている。
9月初めに、CAISOはサクラメントに 800人の関係者を集め、この電力網広域化に向けたディスカッションの場を提供した。技術的な内容や費用面でのメリットはクリアになっていることが確認されており、より広域な電力網で再生可能エネルギーを統合することによりコストを抑えることができる一方で、政治的なプロセスが厄介な障害として懸念されている模様。
広域電力網の賛成派の意見
- 2014年に開始して以来$88Mもの削減に成功しているEIM(Energy Imbalance Market: エネルギーインバランス市場)に影響を受けている。EIMでは、参加している電力会社(現在はカリフォルニア州の3大私営電力会社、PacifiCorp社、NV Energy社)に対して電力均衡のためにリソースを共有することが認められている。この先、Idaho Power社やArizona Public Service社など、他の電力会社の参加も見込まれている。
- しかしながら、SB350(2030年までに再生可能エネルギー発電を50%にするという州法)の下、CAISOはより包括的な地域連携確立に向けて動いており、前日市場取引にまで拡大させようと意気込んでおり、東海岸の広域市場と同様に、卸売電力市場の競争を促進することも予想される。
- CAISOがこのように積極的な働きかけを行っているのには、風力発電と太陽光発電市場の成長が背景にある。風力発電と太陽光発電はカリフォルニア州の昨年の電力供給量の14.2%を占め、新規発電のリソースの中でも最も低コストであった。ワイオミング州とアイダホ州を除くすべての州が再生可能エネルギーに関する目標(RPS)を設定しており、カリフォルニア州とオレゴン州については再生可能エネルギー利用割合基準を自ら50%に設定している。
今回のシンポジウムで発言したJerry Brownカリフォルニア州知事は、同州が再生可能エネルギー利用割合基準の目標を達成するためには、非常に優れた電力網が必要であり、各州によって状況は異なるが、広域電力網によって効率化が進むことは間違いない、と述べている。
問題となるのは、
- CAISOの取締役会のメンバーがカリフォルニア州知事によって任命されている。
- 広域電力網では各地域の電力会社が参加しており、各地域の規制当局も広域電力網の運用にあたり介入することを期待しているが、カリフォルニア州によって全体がコントロールされてしまうのではないか、との懸念を示している州もある。
- 政治的な問題に加えて、当該広域電力網の運用により、既存の石炭火力発電所が新たな機会を得ることになってしまわないかとSierra Clubの担当者は心配している。
- 一方で、Natural Resouces Defense Councilの担当者は、風力発電・太陽光発電の価格競争力に石炭火力発電撤廃の動きが早まるであろうとの見方を示している。
CAISOの広報担当であるSteven Greenlee氏は、課題として次の2点に言及している。
- 1点目:新しいメンバーが電力網に対してどのように対価を支払うかという点である。Utah Accociated Municipal Power Systems社のHunter氏は、オーバーヘッド等の支払いにより送電にかかる費用が4倍にも膨れ上がらないかと心配している、と述べている。
- 2点目:供給力確保。カリフォルニア州は将来の投資につながる容量市場を有しておらず、規制対象の各電力会社に15%の予備力を備えておくように要請している。CAISOが将来の容量獲得に関するメカニズムを有していないため、広域電力網についても同様にメカニズムがない。
と、いろいろな問題点が出てきているが、まあ、これらは前進のための良い議論であると筆者は思う。
東海岸のPJMは、10州以上が参加しており、「呉越同舟」状態であり、年がら年中裁判沙汰になっているが、まあそれでも前に進んでいる。