リチウムイオン電池の持つエネルギー

数日前に、シリコンバレーの某社を訪ねたときに、そこの倉庫も見学させてもらった。
その倉庫のさらに奥の特別管理倉庫には、家庭向けの「リチウムイオン電池」が100台ほど出荷待ちで鎮座していた。
その会社の方との会話で、安全に並々ならぬ配慮をなされていることが分かった。
この家庭向けの「リチウムイオン電池」の容量は10kWhだそうだが、通常、工場出荷時には半分(5kWh)まで充電する。「リチウムイオン電池」は過充電・過放電を嫌うので。
5kWhの「リチウムイオン電池」が100台あると、その総エネルギーがどれぐらいかを計算してみる。
筆者は物理屋なので、エネルギーの単位はジュール[ J ]に換算します。
1kWhは3.6 MJ (メガジュール)なので、5kWhが100台(=500kWh)あると
  3.6 MJ/kWh x 5 kWh/台 x 100台= 1.8 GJ (ギガジュール)
となる。
何らかの原因でこのバッテリーの「カソード(陽極)」と「アノード(陰極)」がセル内部で短絡(ショート)し、内部に蓄積されていた1.8 GJのエネルギーがすべて「熱」になったと仮定する。
その際にどれだけのエネルギーを放出するかを、何キロの鉄の塊を溶かすことができるかで考えてみる。
鉄の「比熱」は0.4[J/g・K]、融点は1,535℃である。
通常時の鉄の温度を20℃とすると、鉄が溶けるためには温度が1,515℃上昇する必要がある。
物質の「比熱」とは「1gあたりの物質の温度を1度あげるのに必要な熱量」で下記の式が成り立つ。
 熱容量 [ J/K]= 質量 [g] x 比熱 [ J/g・K]
温度上昇分を1,515℃、溶かすことのできる鉄の塊の重量をX[g] とし、バッテリーの全エネルギー(1.8 GJ)がこの鉄に吸収されるとする。
 1,800,000,000 [J] / 1,515 [K] = X [g] x 0.4 [J/g・K]
 X [g] = 1,800,000,000 [J] / (1,515 [K] x 0.4 [J/g・K] )
 X [g] = 2,972,000 [g]
となり、約3トンの鉄をドロドロに溶かすことができるエネルギー量となる。
う〜む、膨大なエネルギーです。
リチウムイオン電池の保管場所がその管理に気を使うのがよくわかる。
ちなみに、WikiPediaより、1.8GJ近辺のエネルギーが大体どういうエネルギーであるかを調べると下表のようになる。

1.5 GJ    雷の平均のエネルギー
1.53 GJ  インドの人口1人あたりの年間消費電力量(2002年)(421 kWh)
1.6 GJ   45リットル(平均の燃量タンクの容量)のガソリンのエネルギー
1.77 GJ  質量1kgの物体が木星の引力圏から脱出するために必要な運動エネルギー
1.956 GJ  プランクエネルギー
2.00 GJ  マグニチュード 3の地震のエネルギー
3.2 GJ   一般的な衣類乾燥機の年間の消費電力量 (900 kWh)
4.184 GJ  TNT火薬1トンの爆発のエネルギー

こうやって、ジュールで比較すると色々面白い。「雷の平均のエネルギー」とか「インドの人口1人あたりの年間消費電力量」とか「マグニチュード 3の地震のエネルギー」とかが、同じぐらいのエネルギー量で横並びになる。