水素ステーション

日本で半月うろうろして、3月13日にアメリカに帰ってきた。
日本にいる間も、帰ってからも、ブログを思い切りサボりまくっています。
見に来てくれた人、ゴメンなさい m(_ _)m。
ということで、今日は最近色々考えている「水素ステーション」とFuel Cell Electric Viecle(FCEV)について。
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FCEVがまだ一般的に走行していない現在(2016年)においては、水素ステーションの建設とFCEVの普及は「鶏と卵の関係」になっている。
FCEVに関しては、カリフォルニア州の温暖化ガス削減シナリオの一つでは、「2035年に300万台のFCEVと300万台のPEV(BEV+Plug In HV)が走行している事」を想定している。
20年後の事なのでなんとも言えないが、水素の持つエネルギー貯蔵能力を考えると、一概に「ありえない」とは言えない。
で、その水素供給インフラの整備は今後急速に進む可能性があるので、基本的な数字をおさらいする。(水素の比重は約90g/Nm3)
(1) FCEV 1台が1日に必要とする水素の量。
MIRAIの場合、122.4Lのタンクに70MPa(713.79気圧)で水素を満タンにすると、その水素の量は
   122.4L x 713.79 = 87.4 Nm3 (約7,900g) (Nm3は「ノルマルリューベ」と読んでください)
となる。MIRAIはこの水素で650km走行が可能(JC08モード)なので、1kmあたりに必要な水素は
   87.4 Nm3 / 650km = 0.13 Nm3/km (11.7g/km)
仮に1日に50km走行すると仮定すると、FCEV1台あたり
   0.13 Nm3/km x 50 km/台・日 = 6.5 Nm3/台・日 (585 g/台・日)
の水素を充填することになる。
(2) 2035年時点のFCEVに必要とする水素の量
かりに、2035年時点でカリフォルニア州政府の予想通り300万台のFCEVが走っており、毎日6.5 Nm3の水素を充填すると
   6.5 Nm3/日・台 x 3,000,000台=約20,000,000 Nm3/日
の水素を毎日生産しなければいけなくなる。
これは、重量でいうと、
   約20,000,000 Nm3/日 x 90 g/Nm3 = 約1,800,000,000 g/日 =約1,800 ton/日
となる。
(3) 水素製造・供給ステーションでの製造可能量
カリフォルニア州オークランド近辺)に設置・運用されている下の写真の水素製造・供給ステーションには、ハイドロジェニックス社のHySTAT-30が設置されているが、この装置の1時間の水素製造可能量は2.7 kg (=30 Nm3)であり、仮に24時間フル稼働すると、1日の生産量が65kg (=720 Nm3)である。


(4) 300万台のFCEVに必要な水素ステーションの数
乱暴な計算であるが、300万台のFCEVに必要な1,800 ton/日の水素をこの水素ステーションで製造するには、このような装置がカリフォルニア州
   1,800 ton / 65kg = 約28,000ヶ所
必要となる。う〜〜ん、あまり現実的な数値とは言えない。
ちなみに、現在(2016年)、カリフォルニア州内にあるガソリンスタンドは約8,000ヶ所である。
(5) で、どうするか?
まずは、このような水素製造装置の効率を数倍上げる必要がある。現在のこの水素ステーションの1日の水素生産量は65kg (=720 Nm3)であるが、まあこれはこのステーションがサンフランシスコ・オークランド地区を走っている数十台の「水素燃料バス」を運行すればいいだけなのでこうなっているわけである。
これまた乱暴な予測ではあるが、2035年(20年後)には、この装置と同じ価格・設置場所で、5-10倍の生産能力をもつ水電解装置が現れるであろう。
仮に装置あたりの生産効率が10倍になると、上記の28,000ヶ所が2,800ヶ所となり、現在のガソリンスタンド並みの数となる。(使った電力あたりの水素製造効率が10倍になるわけでは無い。これは分子電気論的に上限が決まっており、どんなに向上しても現在の1.5倍にしかならない。)
また、自家用車としてのFCEVには、ステーションで水素を充填するのではなく、自宅でPVを用いて製造して充填するようになるであろう。自宅に10kW程度のPVが設置されておれば、平均で毎日10kW x 6時間 x 30% = 18kWh程度は発電可能である。
1kg = 1,000gの水素は、大体100kWhの電力で製造(電気分解)できるので、100gだと10kWhで製造可能である。
もちろん、10kWh程度のバッテリーを家庭に持つ必要があるが、2020年での10kWhのバッテリーのコストはBOSを入れても600ドル程度であろう。

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という、極めてオプティミスティックな計算でした。
ちなみに、現時点での水素の生産は、ほとんど天然ガスの改質で行っている。
カリフォルニア州の場合、そもそもの動機付けが「温暖化ガスの削減=化石燃料の全廃」なので、「天然ガスの改質」ではまったく解にならない。なので、再生可能エネルギーで発電した電力でのオンサイトでの水の電気分解が必須となる。または、バイオガスからの改質だが、これは量的に今の時点ではあまり増えそうにない。
遠隔地で水素を集中的に大量に生産して圧縮し、そこからタンクローリーで運搬すべきか、水素ステーション単位に水の電気分解で分散的に生産・圧縮・貯蔵すべきか、意見は分かれているが、カリフォルニア州政府は今の時点では分散型を推している。