輪番停電(rotating outages)

PG&Eから再度「輪番停電(rotating outages)」の警告が来ています。
8月17日から20日までの15時から22時の間に、電力系統運用者(CAISO)の指示により、1〜2時間電気を停めることがあると。
過去の経験では、警告なしで突然停まります。
せめてもの防衛手段として、数時間停電しても冷蔵庫・冷凍庫の食べ物が悪くならないように(🍺がぬるくならないように)、大量の氷を備蓄するようにしています(←これもエネルギー貯蔵)。
CAISOによると、今日もかなり逼迫している模様。
- 今日のピーク予想:48,145 MW 
- 今日の発電能力:51,245 MW

=お詫びと訂正=


昨日のポストで「金曜日の停電は山火事防止のための計画停電(PSPS)だった」と書きましたが、私の早とちりでした。申し訳ありません。実際は「需要増に対して発電リソースが足りなくなりそうだったので輪番停電(Rotating Outages)を実施した」でした。
ご指摘いただいた増田様、大変ありがとうございました。
停電は停電なので、住民としては迷惑以外の何者でもないのですが、PG&EとCAISOの説明文を読むと、「再エネが増え、安定電源が減っていくカリフォルニア州の本質的な問題」であることがわかります。(この問題は別途解説します。)

以下、松田様からのメッセージを引用させていただきます(ご本人の許諾を得ています)。
ーーーーーーー
昨日(金曜)の計画停電の件、PSPSではないとPG&Eが敢えて言及しているので少々気になりました。
今回は火災リスクではなく、単純に日没後でPVが止まった後、涼しくなって需要が減るまでの間に供給が不足したDuck Curveリスクの顕在化かと理解しておりました。
本日(土曜)は470MWのunexpected outageと1GW風力の悪風況も悪さをした様ですね。
PSPS以外の計画停電は2001年の電力危機以来19年ぶりという報道も目にし、改めてEnergy Transitionの転換期にある事を認識しました。ベースロードも一部再エネに頼る様になった今、IRPにおけるReserve Marginの考え方を見直さないと、毎年同じ事が起きそうですね。
金曜日の停電は需要増以外に理由が開示されておらず、土曜日は需要増+予定外停止+風況悪化と理由が追加で開示されてるのも何故だか気になりますしね。
名声が地に落ちているPG&Eにとっては、送配電 保守管理義務 怠慢が原因のPSPSと違って、今回はCAISOの長期計画失策だと連呼したい気も分かりますが、実際に電気を止めるのがPG&Eである限り市民の理解を得るのは難しく(実際にtwitterでは、だからCCAが良いという誤った論調が散見されます)、少々PG&Eが気の毒ではあります。

CAISO : California Independent System Operator
PSPS : Public Safety Power Shutoff
CCA : Community Choice Aggregation
IRP : Integrated Resource Planning

https://www.pgecurrents.com/2020/08/14/given-strain-on-power-grid-during-excessive-heat-pge-begins-rotating-power-outages-at-direction-of-state-grid-operator/
http://www.caiso.com/Documents/Stage-3-Emergency-Declared-Rotating-Power-Outages-Initiated-Maintain-Grid-Stability.pdf

f:id:YukioSakaguchi:20200826024747j:plain

 

質問の回答

質問:『サンフランシスコ地域では熱波で、この週末「計画停電」になるかもと言われてます。「みんながエアコン使うからだよ」と言ったら娘に、「東京ではみんなガンガンエアコンしてるのに停電にならないのは何故?」と聞かれた。何故でしょう???』

回答のようなもの:
1. まずは一般論。
電線に電流をたくさん流すとジュール熱により体積が膨張し、電線は長手方向に伸び、下に垂れます(英語でsag)。どれくらい垂れるかの尺度は「弛度(ちど)」と呼ばれます(図のS)。
定格以上に電流を流しすぎると規定の弛度を越え、送電線の下方にある樹木と接触し、「地絡事故」を起こし、スパークが飛び、山火事につながります。
定格以内であっても、樹木が異常に繁茂して送電線との距離が短くなっていたり、強い横風が吹いたりすると同じような接触地絡事故が起きます。
このため、樹木管理(Vegetation Management)が電力会社の極めて大事な仕事になっていますが、樹木の成長の早い夏場は「イタチごっこ」状態です。
また、大きな電流が流れると、古くて老朽化した送電機器が破壊される危険度が上がります。

2. なぜ日本では計画停電が不要でカリフォルニアでは必要か?
これは、
(1)設計余裕度
(2)保守をどれだけ真面目にやっているか
(3)いざ問題が起こったときに自動復旧できるかどうか
の違いだと思います。

f:id:YukioSakaguchi:20200826023754j:plain

 

「電力マーケット2030」

 
拙文が載った矢野経済研究所の「電力マーケット2030」のレポートをアメリカまで送って頂きました。
「カーボン ニュートラル ビジネス研究所」の伊藤所長の力作です。
日本を火曜日に出されたとのことですが、土曜日に着きました。早い!!
(なお、発行は3月です。受け取りが遅れたのは、送付先を連絡しなかった私のミスです。)

f:id:YukioSakaguchi:20200807090032j:plain

f:id:YukioSakaguchi:20200807090037j:plain

f:id:YukioSakaguchi:20200807090039j:plain




『茅の恒等式』

温暖化対策(温室効果ガス削減)が議論になり始めた1989年の「IPCC第1回会議」で茅陽一先生が提案された『茅の恒等式』というものがあります。
茅先生は、
二酸化炭素の排出を、(1)エネルギー消費あたりのCO2排出量(2)国内総生産GDP)あたりのエネルギー消費量(3)GDP――の3つの要因のかけ算として振り分け、それぞれの要因の時間的な変化をみてやれば、CO2排出を抑制するには今後どうしたらよいかが推定できると考えた。」
「単純な式だが、そのため誰にでもよくわかるので今に至るまでいろいろなところで使われている。最近の第5次報告書作成では分析の基本手段として使われた。」
と仰っていますが、このような基本的な「モデル」はシンプルだけど、噛み締めるとじっくり味が出てきます。
私は、ソーラーとバッテリーに関する『サカグチモデル』というのを提唱して、セミナーやあちこちで宣伝していますが、こちらの方はあまり受けが良くないようで(笑)。

IPCC:国連気候変動に関する政府間パネル
出典:日経新聞私の履歴書(2018年12月22日)
茅陽一先生:地球環境産業技術研究機構 理事長

 

f:id:YukioSakaguchi:20200807084043j:plain

 

AIチップ設計拠点フォーラム

シリコンバレーに長く住んでいると、だんだん「すれっからし(*)」になってきて、世の中のブームに乗れなくなってきます。
最近の「AIブーム」も、「ふ〜〜ん、このブームで何回目だろう」と言う感じで流していましたが、「AI x Energy」の発表を聞いたり、古巣(H)の友人と議論すると「今回は本物かも〜」と思うようになってきています。

COVID-19の影響で時間があることもあり少しづつ勉強中ですが、「構造型情報処理←大事」「誤差を最小にするように係数を少しづつ変え、その結果を逐次学習するという処理を延々と繰り返す」「概知データで伝搬と逆伝搬を繰り返す」「所望の結果に向けてシナプス値を調整」「未知データを伝搬させ結果を出力」「膨大な単純計算(積和演算)」「大量の並列性の存在」「重み係数構造情報の高速メモリへの格納」「2値化ニューラルネット
とかの意味が少〜しづつわかってきたように思います。

「推論」と「学習」の間の「DNN(Deep Neural Net)」を解くには、クラウド上の「A/Iサーバー」を用いる方法が一般的です。
しかし「巨大な配電網」に「網状に配置」された「多数のデバイスや分散電源」が数十ミリ秒(**)で最適解を得るには、「A/Iチップ」を用いたエッジコンピューティングが優れていると思います。

ということで、最近の勉強結果(!?)を発表する場をいただきましたので、僭越ながら40分ほどたわ言を喋らせていただきます。
https://ai-chip-design-center.org/aiforum202007/

・フォーラム:「AIチップ設計拠点フォーラム」
・阪口の演題:『米国で急速に進むエネルギー革命と人工知能
・日本時間 :2020年7月31日(金)13:35-14:15
・西海岸時間:2020年7月30日(木)21:35-22:15
・(誰でも登録・参加可能です。)

(*) 「擦れっ枯らし」って書くんですね。知らなかった。
(**) 60Hzの電力網の1周期は16.66ミリ秒。
「AIチップ設計拠点」→産総研と東大が協力して設立した、AIチップ開発加速のための拠点。

オンラインセミナーで痛感したこと

セミナーのたびに感じる事ですが、今回のオンラインセミナーで痛感したこと。
(1) (書いた)文章は伝わらない
(2) (喋った)言葉も伝わらない
(3) 「知識」なら、「図・表・文章・言葉」を組み合わせて多元的にアプローチすれば、何割かは伝わる。

大事なのは、
(1) 事象の裏に隠れている動機や原理やモーメンタム
(2) なぜ今こうなってるのか、これからどうなりそうなのか
(3) モヤモヤした事象が自分たちのビジネスにどう関わり合って来るのか
(4) どうして自分たちは先回りできず後手後手になるのか
を考えること。。。
→ (当たり前だが) ハードルが高いです。

「こういうセミナーになるといいな」といつも思うのは
(1) 参加した人が「正しい知識」を得るだけではなく、多元的なイメージを持て、それを周りの人に自分の言葉で喋れる
(2) その上で、「動機や原理」がきちんと「腹落ち」できるようになる
(3) 答えはすぐに出てこなくても、「じゃどうすればいいのか」のヒントが得られる
→ う〜〜ん、「言うは易く行うは難し」ですね。
どうしても「知識の伝達で精一杯」になってしまう。

f:id:YukioSakaguchi:20200807083648j:plain