ニッケル系の正極材料

リチウムイオン二次電池の正極(カソード)と言えば、20年前のソニーによる最初の実用化のころから最近まで「コバルト酸リチウム(LiCoO2)」を用いるのが普通であったし、今でもモバイル機器向けはそのままである。
しかし、近年の車載用では正極にコバルト系を用いるケースは(少なくとも日本メーカー製では)皆無である。マンガン系、3元系が多い。(この辺りの話はまた書くとして。)
主な車載用のリチウムイオン二次電池の電極の素材を一覧にしてみた。(全部じゃないです。)
正極(カソード)は「マンガン系」か「3元系」、負極(アノード)は「カーボン系」が多い。

パナソニックが採用している「ニッケル系」は、耐熱性が悪い(温度が上がるとニッケルが酸素を放す)ため、これまでNGだったが、パナソニックは色々な工夫で克服し、高い容量密度を実現している。
この論文によると、下記の改良を加えて実用化したとの事。

  • 1つ目の取り組みは、正極材料自体の耐熱性の改善である。従来のニッケル系に異種元素を添加することにより、充電状態での結晶構造を強固(Ni-O共有結合の強化)にし、充電状態における材料の熱的安定性を改善した。
  • 2つ目の取り組みは、内部短絡時の発熱を電池設計面から抑制する当社独自のHRL(Heat Resistance Layer)技術の導入である。これは、極板間に絶縁性の(金属酸化物からなる)耐熱層を形成することで、金属異物などによる正極-負極間での微小短絡が発生しても、短絡部が拡大せず、過熱に至る反応を抑制する。その結果、内部短絡による発熱や過熱を防止し、電池としての安全性を改善した。

数年前まではほとんどタブーだった「ニッケル系」を、上記のような色々な工夫で使いこなすのはとても立派。